《MUMEI》

「遅いぞ。」


家に帰ると、
玄関の前で仁王立ちをして俺の帰りを待っていた、
父の姿があった。


「すみません。」


「何していたんだ?」


父は何かを探る様な目付きで俺を見下ろしている。


「いえ、何も。自分の不注意で帰りが遅く…」


バシッ


言い終わらぬうちに思い切り頬をビンタされた。

「…っつ…」


「何をやっているんだ!!
お前と言うもので在りながら、
恥ずかしいと思わないのか!!」


「はい。すみません。」

「ったく、お前は特別なんだ。

分かっているな?

一般人と話すのも、もっての他だ。」


やっぱり気付かれた。


父さんはいつもお見通しだ。


「いいか、お前は特別何だぞ?」


「はい。」


そう、俺は特別なんだ。

下唇をギュッと噛み締める。


「はあ、もういい。
今から練習いくぞ。」


「はい、今すぐ。」


駆け足で自分の部屋に戻る。


ジャージに着替えている途中、
鏡に映った自分が見えた。


鏡の中の俺は、
上腕筋、腹筋……鍛えぬかれた身体をしている。


胸を張って、堂々としていいはず。


なのに何故か俺の表情は暗かった。


大きなため息とともに練習へ向かった。

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