《MUMEI》
鉄格子
独房に男が一人、
座って居る。


“私”は彼に会いに来た。

「刑事さん、いつもいつも同じ事の繰り返し。飽きませんか?」
彼は薄ら笑いを浮かべる。往年の美男子と謳われた容貌もこの二年で衰え、落ち窪んだ瞳に宿る眼光はかつての栄華を誇った“因幡”家の貴さを現す。

「では、今日も同じ質問をしましょうか?
“何故因幡の一族を皆殺しにし、屋敷へ火を放つ必要があったのか”。」
私は期待に応える。

「だから、言ったでしょう、『依子』がそう望んだからです。」
彼も同じく応える。

「その『依子』さんですが、死体が見付からないのですよ。」
私の言葉に彼はこちらに視線のみを向けた。

「依子が生きている……?まさか僕は確かにこの手で絞め殺した……」
彼の指は自分の喉に触れていた。

「理由が不確定になってしまう。証拠不十分で貴方は殺人鬼として死刑になれませんね。」
私は彼を鉄格子隔てて見つめる。

「死刑になれないのは困る、依子と約束したのだから……」

「妹様ですよね?」

「……だったら良かった。」

殺人鬼、因幡武丸の懺悔が始まる。

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