《MUMEI》
“私”の話
独房で、ぱらぱらとした拍手が鳴る。


「…………いつ聞いても、泣かせるお話ですね。」
私は看守に用意された椅子に足を組みどっかり座る。


「僕は確かに依子を花畑に眠らせました。」
因幡武丸は床の一点から視線を逸らさない。

「ええ、私は嘘をつきましたからね。
依子さんのお骨は存在しています。
ちゃあんと眠っていますよ……因幡の“お墓”に。」
私は足を組み直す。

「墓…………?」

「貴方の義母、セツさんは伯父の卑劣な手で義妹になられる“依子”さんを出産します。
しかし依子さんは御自身の子供でないことを打ち明けると貴方の父にあたる武久さんに責められたのです。分家である方達にも虐めを受けていた彼女は後ろ盾も無く絶望し、入水自殺
…………親子で、ね。依子さん、享年五歳でした。」
武丸氏の顔は蒼白になってゆく。

「先生、意味が分かりません……じゃあ、僕の会っていた依子は……?!」

「……パイプ、覚えていますか?花畑……、地下室
貴方の住む村から証言を取りました。
皆さん曖昧で、火を点けたのを見ただの、依子という人物を見ただの……村は内密に花の栽培に力を入れていましたね。地主である武久氏が村を統括していた、芥子の花です。
特に力を入れていたのは品種改良された“依子”と言う品種でした。」
“依子”は大麻にするとその名の通り依子という娘の幻覚を中毒者に見せる。

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