《MUMEI》
診療
「先生、
犯人は娘を殺したことを認めましたか……?」
依頼主に聞かれた。

「まだ、現実との区別は出来ていませんね。“依子”さんだと思い込んで殺された娘さんの記憶はまだ開けません。
進展はありましたよ、私のことを“先生”と言えた。娘さんのことも次第に思い出すでしょう。」
幻覚の狭間で武丸氏は“依子”と思い込み幾人の女性と関係を持っていた。
屋敷で殺されたのは因幡の分家だけでは無かった、屋敷中の人間は皆殺されたのだ。

「娘を殺したことを必ずや認めさせて下さい。」
深々と、礼をされた。

「報酬分は働きますよ。」
私は殺人を認めさせるため殺人鬼をカウンセリングするように雇われた。




……とは言うものの、まだ“依子”以外の女を抱いたとは言えていない。
言えば、彼の神経は崩壊してしまうかもしれない。
いや、違うな。
偶像の愛を、実物として受け入れれば彼の深層にある美しい“依子”の念いが汚れてしまうからだろうか。





「……恋、か?」
私は自分で発した言葉で吹き出してしまう。突風にスカートが煽られた。

また、私は彼に会いに行こう。

“依子”の話を聞きに。



    終

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