《MUMEI》

「モモ様がやってきてからは千秋様は穏やかなのですよ……。」

お咎め無しになった懲罰室の一件から使用人の人達と話せるようになった。
新米の人を助けてからは彼女を打っていた人は積極的に話してくれる。
私の部屋を掃除するときは二人掛かりで話しながらしてもらう。


「そうですか?私にはあれ以上の千秋さんは想像出来ませんね……」


「お変わりになられたといえば千石様ですね、千秋様がやってきてからは一つ屋敷をお譲りしましたし、噂では現在、首輪付きの者はモモ様だけで他は私達のような地下奴隷ばかりだそうです。

以前は本当に沢山、屋敷一帯に首輪付きの方々がいらっしゃいました。」

私のような人間が、そんなにいたのか……。


「その、萬代さんもそうだったのですか……?」

私の言葉に好奇心旺盛な瞳が僅かに動いた。


「萬代様は私達のように地下から這い上がったカリスマでした。
最終的に千石様の秘書まで上り詰め、横に寄り添うよう影のような立派な使用人でした。
それが突然千秋様と入れ代わるように行方不明になられたのです。」

萬代さんは千石様が信用していた人だったのか。


「そういえばよくご友人と食事することもなくなりましたね、……以前より睡眠も減り、部屋に閉じ篭ることが増えたそうです。」

屋敷ごと違うのに凄い情報網だ。


「友人……」

千石様にもいるんですね……とは言えない。


「モモ様、顔にすぐ出ますね。」


「……それ、憲子さんにも言われてしまいました。
あ、憲子さんは私が此処に来る前にお世話になった方なんですが……」


「“憲子”……?名前で呼ばれていたのですか?」

訝しげな表情をして考えている。


「使用人が名前を呼ばれるようになるまでには屋敷の事が把握できる経験を積み地位を確立しているので、私達下の使用人は知っていて当然なのですよ。」

新米の方が教えてくれた。確かに皆さんは藤間さんの名前を知っているようだ。


「……じゃあ憲子さんは…………」


「最近の方なのかもしれませんね、別の所で働いていたのを千石様が雇われたのかも……とても、私達には異例過ぎて考えられませんが。」

謎は深まるばかりだ。

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