《MUMEI》
名前 〈私〉
…どうしよう。
この周辺は、誰もいない。
大声を出しても、私達の声は虚しく響くだけだった。


私が動けずにいると、



「あ」



椎名くんが声を上げた。



「…窓」



そう呟くと、椎名くんは携帯で足元を照らしながら歩き出した。



「…あった」



椎名くんは、窓を見つけ出した。



「…椎名くん…??」


「窓は、開くんだな」



…まさか。



「ちょっと、ここで待ってろ」


「…待ってろって、まさか―…」


「…窓から出る」


「…………!!!」



椎名くんはそう言うと、窓枠に足をかけた。



「だ、ダメだよ!!」



慌てて引き止める。



「…大丈夫だって」



椎名くんが笑う。



「…ここ、3階だよ!?
…危ないよ!!」


「大丈夫、お前の身体に傷は負わせねーから」


「でも…!!」



私が食い下がると、


椎名くんは私に近づいて、私の頭に手を置いた。



「大丈夫。―…怖くなったら、名前呼べ。
…すぐ、とんでくから」


「………」


「そんな顔すんなって。…な??」



私が頷くと、椎名くんは、よし、と笑って私の頭をくしゃっと撫でた。



「じゃ、行ってきます!!」


「…気をつけて!!絶対、怪我しないでね!!」


「心配すんな!!」



椎名くんが、窓から降りた。



思わず、窓に駆け寄ろうとする。



真っ暗で、途中でつまずき、転んでしまった。



身体を起こすと、急に不安が押し寄せてきた。




…私の身体に傷が付くのが怖いんじゃない。


『椎名くん』が怪我をするのが、怖い。



―…でも、椎名くんは『大丈夫』って言った。



信じよう。




椎名くんの、『大丈夫』を。

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