《MUMEI》

―…バタン!!



ドアの開く音とともに、
椎名くんが飛び込んできた。



「…どうした!!?」



椎名くんは、肩で息をしている。



ほっとして、また涙が溢れてきた。



「…大丈夫か?―…何があった!?」



椎名くんが近づいてくる。



と、そのとき、



また雷が鳴った。



「わああぁあっ!!!」


叫んで、椎名くんに飛びかかってしまった。
そのまま後ろに倒れこむ。



「のわっ!!?」



ごんっ



椎名くんの声とともに、鈍い音。



「い…っつ…」



椎名くんが、身体を起こす。



「ご、ごめん!!」



私が椎名くんを押し倒す格好になってしまっていた。
慌てて身体を離す。


椎名くんは、角にあった棚に頭をぶつけてしまったようだ。



「…ごめんね、」



呟くと、



「…雷、怖かったのか??」



と、椎名くんが低い声で呟いた。



「…で、でも、もう大丈夫!!…ほんとにごめ―…」



ガッシャ――…ン!!



大きな、雷の音。



無我夢中で、また椎名くんにしがみついてしまう。



はっと我に返る。



何してんの、私…!!


離れようと、身体を起こした。



「…もう、ほんとにごめ―…」



2度目に私の声を遮ったのは、雷じゃなかった。



「――……!!」



起こそうとした身体が、強い力で引きよせられる。


…ぎゅっと、抱き締められる。





「…ごめん、怖かったな……」





優しい声。





椎名くんの、心臓の音が、聞こえる。


…もしかしたら、私の鼓動かもしれない。




椎名くんの腕の中はとても温かくて、




心臓の音はとても心地よくて―…







雷の音はいつの間にか、



世界から消えてしまっていた。

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