《MUMEI》
魔女。
「ふむ・・理解はできぬが興味を惹かれる答えだな。ふふ・・そなた・・名は?」
狩月の答えを自分の中で完結させたように頷き、今まで零していた暗鬱な笑声ではなく、楽しげにも聞こえる笑いを微かに零す。
名は?そう問われた狩月は答えて良いものか悩んでいるようで、戸惑っている。実際、話をしている相手は全身黒ずくめ、おまけに、顔まで隠しているのだから普通ならば避けて逃げるべきだろう。
(普通なら・・名前なんて教えないけど・・でもな・・)
心中で散々悩んでいると、
「名前など教えられぬか・・まぁ賢明な判断であろう。我もそれを非難しようとは思わぬ。くっくっく・・まぁ良い、そなたのお陰でわずかであったが、有意義な時が過ごせた。礼を言う。」
そう告げ去っていこうと背を向けた。
「狩月です!その・・貴方の名前は?」
思わず声が出た。
(うわ・・なんで教えちゃったんだろ・・・)
自分が名を告げたことに困惑しているが、教えても大丈夫、そう納得している自分もいた。
「ふふ・・我に名を教えるばかりか、名まで問うか・・愚かなのか、賢いのか・・不思議な者だな。」
ゆっくりと振り向き、狩月を眺める。その様子、言葉で名前を教えたことを激しく後悔しているのに気が付いたのか、ふむ、そう頷き、顔を覆っているフードを取り払った。
「我の名・・真名はとうに捨てた。あえて呼びたいのであれば・・ハンディング・・そう呼ぶが良い。狂気の深淵、そう呼ぶ者もいるがな・・どちらでも構わぬ、好きに呼ぶが良い。」
フードの下、素顔を見せどこか壊れたような・・悲しげな・・自虐的な笑みを浮かべる。
薄い紫色の髪・・長さはローブに隠れ見えない。そんな事より目を引くのはその眼であった。
右目は昏い闇の様に見る者を不安にさせるような完全な黒・・そして左目は・・左頬からその薄い紫色の髪の間際まで複雑な紋様に埋もれ・・血に濡れたかのように紅く・・血を吸った刃のように紅く輝いていた。知らず知らず狩月は身構えていた。その瞳の紅い輝きに恐怖したかのように・・・
視線が顔を集中している様子に気が付いたのか・・
「驚いたか?我が左眼はな・・気が高ぶると紅く染まってゆくのだ。久しく他の者に対し話などしてなかったものでな・・少々気が高ぶっているようだ。」
そう言うとまた、壊れたような・・さびしげな・・自虐的な笑みを浮かべた。
「いや・・あの・・女性だったって事に驚いてただけで・・」
「ふ・・我が女であって驚いた・・か。くっくっく・・本当におかしな事を言う。・・狩ノ月、そなたは面白い者だな。」
どこか楽しげに、されど悲しげに笑みを深めていく・・
その様子を困ったように眺め・・ふぅ、ため息を一つ。
「そんなに可笑しなことかな?後、俺の名前、狩月なんだけどな。狩ノ月じゃないよ。」
「我がそう呼びたい、それだけの事・・そなたがどうしてもやめよと言うのであれば改めよう。」
「そう言うわけじゃないけど・・まぁ呼び方なんて自由だしいいけどさ。」
慌ててそう答える。
すまぬな、とそう一言告げフードを被り直す。微かに嬉しそうに見えたのは何故だろうか・・

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