《MUMEI》

力を込めてドアを引く。



暗闇の資料室には、



涙で顔をぐちゃぐちゃにして、



何かに怯え、肩を震わせる、



蓬田が、いた。




雷が鳴った途端、飛びついてきた蓬田。



おれに謝って、もう大丈夫だと、無理に笑おうとする蓬田。



息が詰まる。



―…大丈夫じゃ、ねえだろ。





もう、我慢できなかった。




…あのとき抑えられた衝動は、

もう、抑えられなかった。



―…考えるより先に、身体が動いた。



身を起こそうとする蓬田の肩を掴んで、強く抱き寄せる。












“だきしめたい”











…母性本能なんかじゃ、無い。


答えは、おれが思ってたより単純で、
もう、認めるしかなかった。



自分よりよっぽど大きな身体をした『おれ』を抱き締める『蓬田』。



―…この不恰好な抱擁は、





おれの、精一杯の気持ちだった。











  『好きだ』











―…もうどうしようもないくらい、





蓬田のこと





好きになってた。

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