《MUMEI》
実はイイヒト?
ハンディングはすっと顔を教会へ向けたが無関心にただ漠然と眺めている。狩月は視線を再び教会へ戻す。
「そう言えばさ、ハンディングはどうして教会を愚かな建造物なんて言うんだ?フィリアス教っての良く解らないけど・・立派な建物だと思うんだけど・・」
「立派・・か、確かに建造物としては、立派・・そう表現しても問題は無いだろう・・だが、それによって威厳を示さなければ、宗教として成立しない・・それを愚かだ、そう評しただけに過ぎぬし、我が思うのはな、ヒトはそれに縋り、ただ何もせず・・己で決めることもしない・・教義で決まっているのだから・・そう言ってな。思考を放棄し、そこに停滞することは、あまりに愚かだとは思わぬか?故、我は宗教は好かぬ。」
淡々と、自分の意見を述べてゆくハンディング。その表情はフードに隠れ見えていない。
「ん・・・俺は宗教家じゃないし、それにフィリアス教のことも全然知らないからなんとも言えない。それでもこの教会にある、威圧感のような空気が好きなわけだ、でもハンディングの意見が正しいって感じるのも事実だしね。矛盾したこと言ってるのは分かってるけどさ。」
良く解らないそう自分でも思っているのだろう、そのうち頭から煙を吹くのでは?そう思えるくらいに考え、困った顔をしている。その様子をわずかに見、顔を教会の方へ戻すが、ハンディングの肩は微かに震えている。
「くっくっく・・ふふふ・・あっはっは・・まったく、実に理解しがたく、陳腐な返答だが、そなたの考えの一端を見れた気がする。矛盾していることが解っているが、それはそれで構わない・・あるいはそうなのかも知れぬな。」
こらえきれなくなったかのように笑声を上げ、教会と狩月を何度も見返す。その眼は紅く輝いているが、不思議と恐怖は感じなかった。しばらく、矛盾も構わぬ・・か、そう呟き笑みを零す、ハンディングの様子を見ていた狩月だったが・・
「ハンディング。友人登録して構わないか?この世界に来たばかりで友人も少ないし・・」
自然とそんな言葉が出てきた。どう見ても黒ずくめの変人にしか見えないし、不可思議な違和感を纏っているのに、そう聞かずにはいれなかった。
今までの何処か浮世離れした態度ではなく驚いた子供のように純粋に、振り返り真っ直ぐに狩月を見る。そしてわずかに口を開くが言葉は聞こえてこない・・
「ダメかなハンディング?っと・・ごめん自分のレベルのこと考えてなかったや。もっと強くなってからじゃないと・・」
そう言っている言葉を黙らせるかのように、慌てるように、声を上げるハンディング。
「そうではない!我はレベルなど気にはせぬ。聞き間違いかとそう思ったものでな・・だが、そなた本当に我などを友人と認めてくれるのか?」
しばらくハンディングの迫力に圧倒されていたが、すっと手を出し握手をもとめる。
「じゃあお願い。色々迷惑かけるかもしれないけど・・よろしく。ハンディング。」
「ハンドで構わぬ、我も狩ノ月、そう呼ぶのだから・・」
そう告げ、背を向け去っていこうとするハンディング。
「ハンド!えっと・・また今度話しような。」
声を上げたがどう続ければよいか解らずどんどん声は小さくなっていく。歩みを止め微かにこちらを振り返り、
「ふふ・・我でよければ好きにするいい。我も気まぐれにそなたに聞くことがあるやも知れぬからな・・」
足音もさせず、滑るように去ってゆく姿を見送って狩月は次は何処へ行こうか考え始める。

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