《MUMEI》
優しさ 〈私〉
「……わ、わりい…」



小さな声で謝る、椎名くん。



「ううん。…ありがとう。
だいぶ、落ち着いたよ」



笑って答える。



本当に落ち着いた。


椎名くんは、私を安心させるために、
恥ずかしいのを我慢して抱き締めてくれたんだろう。



椎名くんの優しさに、心から感謝した。



―…子どもみたいだな、私。



「…帰ろっか!!」



恥ずかしくなってきて、立ち上がった。



「…騒いじゃってごめんね、椎名くん」



資料室を出る時、椎名くんにもう一度謝った。



「…気にすんなよ、」




俯いて答える椎名くん。





―…本当は、すごくドキドキした。



…ううん、




今も、ドキドキしてる。




椎名くんの体温と、掌の感触が消えずに―…



男の子に抱き締められるなんて、初めてのことで。


見た目は『私』でも、椎名くんは、『男の子』だった。




心臓が、激しく鼓動を刻む。




…ドキドキは、なかなか治まってくれなかった。

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