《MUMEI》

「単なる噂なんか、気にしててもしょうがないのにね。
…昨日は、いきなりごめんね。」



帰りの電車で、椎名くんにそう言った。
今日は、椎名くんに謝ってばかりだ。



私達は、明日ネコを探す約束をして別れた。



家に帰ると、もう椎名ママは寝てしまっていた。


急に疲れが出てきたので、
早々とお風呂に入って、ベッドに倒れこむ。



思い出して起き上がり、ストレッチを始める。



空手は、ヘンな癖が付くといけないので、
型の練習はしないことにした。
その代わり、筋トレと、ストレッチはちゃんとする。


筋トレが終わると、もう一度ベッドに倒れこんだ。



…お布団の、いい匂い。



椎名くんの、涼しい匂い…



急に、椎名くんの掌の感触が蘇ってきて、
心臓がドクンと脈打った。



顔が熱くなる。




…そういえば、下の名前、思いっきり叫んじゃったなあ…


また、ドキドキしはじめた。
実は、男の子を下の名前で呼び捨てなんていうのも、初めてのことだった。

本当に、あの時は夢中で…


名前を呼べば、椎名くんが助けに来てくれると思った。



―…ヒーローみたいに。



「…みつる」



呟いてみる。



きれいな響き。




この綺麗な名前を、


椎名くんの名前を、



呼んでしまった。



―…そう思うと、ドキドキの音が大きくなった。




…早く寝よう!!



椎名くんは、私を落ち着かせようと気を遣ってくれただけなんだし!!



…西城先輩以外の男の子にドキドキしてどうするの、私。

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