《MUMEI》
深手
「……モモ!来い。」

千秋さんに呼び出された。


「はい。」






やっと聞き取れるような囁き声で千秋さんは私に伝えた。

「千石が刺された……」


「――――――え?」

私の脳が働く前に千秋さんは淡々と続ける。


「来い、今直ぐ、だ。」

千秋さんに手を引かれ、私は12日ぶりに千石様と過ごした地下室へと行く。
見知らぬ通路に私が散々見知った扉。




広い空間に柱の横に赤い染みが一点浮かんでいる。

「病院に連絡は?」

俯せになったまま千石様は倒れていた。


「いけません、千石様は病院で診察はしません。
今、医師は貴方だけなので呼びました。」

藤間さんがきっぱり言う。


「器具は……?」


「氷室千石様の邸宅ですよ?」

つまりは、それなりの準備は出来ていると。

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