《MUMEI》
翔と母親
「アタシはあの人を愛している!昔の事にとらわれたくない!」

母親を好きではない翔に、普通に話す事も苦痛だった。

「じゃあ…翔は本当に彼の事を」
「何度も言わせんな。こんな恥ずかしい事」

大事な事は親にきちんと言うべき。翔はそう考えたんだろう。

「分かった。私は何も言わない。…精一杯守ってやりなさい」

翔は母親にそう言われた後、逃げ去るようにマンションに帰った。

「…馬鹿な娘」


そして、俺はというと。

「翔…」
翔に電話をした。
「なんだよ、今疲れてんの!」
「嫌…俺、嫌な予感がしたから、なんかあったのかなと思って」

俺にはなんの気配もない。もしかしたら、翔の身になにかあったのではないかと思って電話したのだ。

「そう…アタシ、苦手な母親に会ったよ」
「本当?」
「あぁ。いつまでも報告せずに居るのは後味悪いしな」

俺は目を細めて笑った。
「そうか…ならいいや」

「心配した?」
「んな訳ないだろうが」
「…寝るから、またね」

そういうと、俺は受話器を切る。

「…俺も…親に会わなきゃいけないんだけどなぁ」

そして、次の日。
冬休みも中盤になり、俺は買い出しに出かける。

「…やっぱり会っておいたほうがいいよな」

俺は買い出しは明日にし、親に会いに行く。

一人暮らしをしているので、親は多分心配しているはず。

歩いて行けば、バスで30分ほどの距離。あまり一人暮らしっていう実感はない。

「着いた」
俺は何故か自分の家なのに、インターホンを押す。

「アホか俺は…」
「はい」
「あ、母さん?俺だけど」
絶対俺の事馬鹿だと思ってるー…

「あぁ、久しぶりね。どうしたの?忘れ物?」
「いや、母さんに会いたくなって」

俺は少しだるそうに顔を見る。

「…あぁ…そう」
「へ?なんかあったの?」
「まあ、いいや、とりあえず上がったらどう?」
「あ」

俺は苦痛なわけでもなく、素直に話せた。

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