《MUMEI》
俺と母親と兄貴
俺は自分の家の中を見るのは久しぶりで、母さんとも話すのも久しぶりだった。
「…翔ちゃんとはどう?」
母さんに聞かれ、俺は一気に吹いた。

「母さん!!」
「ハハハ!顔赤いわよ」
「…まぁそれなりに」

居間にテーブルと椅子がある。俺はそこに座った。

「…もう普通に付き合いたい。いくら言い伝えを守れって言ったってそんな事出来ないよ」

俺はこの事が言いたくて来たのだ。

「…紀和」
「普通の高校生…いや、普通の女の子としてみたいんだ!」

俺はもう言い伝えに振り回されるのはごめんだ。

「翔ちゃんがそんなに…」
「あぁ。あいつが可哀想だ」
母さんは申し訳なさそうな顔をした。

「代々継がれる言い伝えなのに…そこまで言われると…」

母さんの凄まれ方に俺はドキッとなった。

「父さんに伝えておくわ」
ニヤリと笑った。
「やめてくれ〜!頼む!」
「兄ちゃんにも伝えておこうかな」

兄ちゃん!?
そう思った俺は、思わず母さんの腕を掴んだ。

「…あの。兄ちゃんって居たの?」
「嫌だわこの男!居たの?って失礼よ!」

俺は生まれてこの方18年間、兄貴が居る事は知らなかったのだ。

「…え?知らなかった?」
「うん」
「そっか…隆太くんはもう…」

もしかして、死んでるのか?

「言い伝えを守って修行に出るー!って言って10歳の頃に家出したっきりだもんね…」

し…修行!?
俺は信じられなくて立ち上がった。

「なんだよ!修行って!」
「あぁ…大丈夫、大丈夫。あんたは出なくていいから」

いいって言われても…

「その…隆太兄貴…どこに居るんだ?」
「裏山よ」

山籠りしてんの!?

「裏山っていうと…常に見えて居る山?」
「えぇ、そうよ」

「携帯通じないじゃん!」
「…そうなんだよ」

俺は冷や汗ダラダラになり、早速家を飛び出し、兄貴を探しに行った。

(山籠りって…)

山はすっかり歩きづらい様子だった。

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