《MUMEI》

「やあ、美作さんのところの乙矢君じゃないか。あけましておめでとうございます。」

目を形良く細め、口許から麗しい白い歯が見え隠れする。


「……おめでとうございます。」



「知り合い?」


「ああ、父さんの知人。」

美作家は幅広い人脈がある。こんな綺麗な人だ、それは素敵な仕事をしているんだろう。


「宗方です。……可愛いお子さんですね。」

乙矢が抱いている三葉ちゃんのことだ。


「……三葉です。」


「写真撮らせて貰っていいですか?“趣味”で。」

乙矢が露骨に嫌な顔をした。


「いいじゃん、写真くらい。減るもんじゃなし。」

撮らせてあげればいいじゃない。


「じゃあ三人で撮りますよー?一足す一はー?」

鳥居をバックに撮影される。


「………………乙矢、なんで一足す一なの?」


「さあ……」


「ぱぱー、ままが呼んでる」

宗方さんを女の子が呼びに来た。


「かーわいっしょ?るりっちだよー。」

宗方さんが女の子を持ち上げる。
鼻筋が通った美人さんだ。


「わー可愛い娘さんですね」


「本当に可愛い“娘さん”で。」

乙矢は超愛想良くしてるけど“娘さん”をやたらと強調しているような……


「そちらの可愛さには負けてしまいますけどね〜、るりっちキレー系統だからマ・マ・に・似・て?」

宗方さんはしきりに俺を見つめているような気がする……。


「確かに、瑠璃ちゃんは美人さんになるね。瑠璃ちゃんのパパも若い方が良いんじゃないかな?」

こら乙矢、瑠璃ちゃんを誘惑するな。


「うー、どうする?」

宗方さんに瑠璃ちゃんが目配せしている。
かなり揺れてるみたいだ。


「仕方ないな、そちらにるりっちのパパの座は譲って三葉ちゃん達のパパになるかな。」

だから何故宗方さんはこっちに話かけてくるんだろうか。


「でも三葉ちゃんのお父さんになる為には元族の総長とその総長をもオとす旦那を越えなければならないですよ?」

由加里姉に太郎兄は手強いと思う。


「あ……そうか、男子高校生だもんね?」

宗方さんは俺に満面の笑みをする。
子供みたいに無邪気な笑顔だ。


「……え、はい。」


「そうだよねー、ははははははははは。三葉ちゃんのご両親元気ですか?……ふ、はははははははははははははははは!」

笑いこける勢いだけど大丈夫だろうか?
ぽかーんとしてたら熱い抱擁をされた。

「じろう君お花の香りがスル。」

耳元で何か聞こえた。
……鼻?


「自粛しろ。」

乙矢に引き剥がされる。


「じろー!何、今のは!」

七生が臨戦態勢で俺の真後ろに立っていた。


「失礼、帰国子女なものでついついスキンシップを激しくしてしまいました。」

宗方さんは襟を正しながら紳士に笑う。
外国のノリって凄いな。


「じろー、キコクシジョって?」

うんうん、七生らしいね。考えなくていいからという合図として手を軽く握ってやる。


「宗方さん、利恵さんが首を長くして待ってますよ」

両手に破魔矢やお札やらを抱えた男性が迎えに来たようだ。


「きしー抱っこー。」

るりちゃんが甘えている。どういう関係なんだ?


「るりちゃん、俺は荷物抱っこしてるから宗方さんに……」


「るりるり、パパが抱っこしてあげるよ?」

宗方さんがるりちゃんに背丈を合わせて屈む。


「ヤー、きしみたいに柔らかくないんだもん。」

確かにるりちゃんの言う通りで、宗方さんのようにすらりと細身の人では無い。

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