《MUMEI》

やっと壊した扉を千秋さんは軽々と跨ぐ。

痺れた体を引きずるように屋上に入る。


千秋さんが見えた、その先に人影がある。
私の見間違いではなかったのだ。


「――――憲子さん。」

屋上に居たのは憲子さんだった。


「俺を撃てるのか?」

千秋さんは憲子さんへの歩みを止めた。
彼女の手の中には拳銃がある。拳銃は千秋さんを近付けさせないように千秋さんの方へ向いていた。


「憲子さん……そんなもの下ろして下さい。」


「モモ様……出来ません、私はもう……」

憲子さんの手から刃物が零れた。


「尚更だ、主人に刃を向けたのならば主人に裁かれるべきだろう。命さえも主人の一存で決まることを知っているよな?」

拳銃を向けられても千秋さんは動じていない。


「……憲子さん、理由があるのでしょう?」

だって、あんなに優しい憲子さんが簡単に人を殺せるはずない……。




「私は、全て間違っていたのです……モモ様に出会えて嬉しかったです。私なんかがおこがましいですが、息子のように思っていました…………」





銃声が鳴り響く。耳鳴りがした。
硝煙の臭いに、口許を押さえてしまう。

「憲子さんっ……」


こめかみを打ち抜いた憲子さんはバランスを崩し後ろに倒れ、そのまま地上に叩き付けられた。

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