《MUMEI》
罪の黒
深夜、また目が覚めた。

憲子さんが落ちてゆく映像が瞼の中で何度も再生される。


ふと、扉の前で気配を捉えた。
闇に同化する黒い着物はまるで死者の国の使いだ。


「…………せ、千石様」


「亡霊でも見たような顔だな、モモ。」

久しぶりにその名を呼ばれた。
音も立てず私に近付いて来ると、腹部に乗られた。


「簡潔に言え、死の間際になんと言っていた?」

刺されて眠っていたとは思わせない覇気だ。
憲子さんのことをわざわざ聞きに来たらしい……


「私が、拳銃を下ろすように言うと出来ない、と答えました……」

口にすればするほど腹の重圧が加わるようだ。

「……理由を聞くと全て間違っていた、……と…………そして私を息子さんのように思ってくれていると伝えてくれた後に彼女は拳銃で……………………」

手で目を隠すとまた、映像が廻り始めていた。


「そうか。」

千石様は血の通わないような冷たい声だ。


「……私は……救えませんでした、私は、悲しいです……お母さんのように思っていました……」

母親が亡くなっていた私にとっても憲子さんはお母さんだった。


「……懺悔は口にするものでは無い。罪を背負ってこそ救われるのだ。」

千石様は泣いてしまった私を殴るわけでもなく、罵るわけでもなく、諭して下さった。


「……千石様……」

その言葉で少し楽になれた。

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