《MUMEI》
拓海視点



「久しぶり…」



「びっくりした、…上がれよ」





一年振り位に訪れた仁のマンション。




ドアを開けた瞬間漂ってきたマンション独特の匂い、そしてそれは酷く懐かしくて…。





一歩一歩踏み出して部屋に上がれば前に見たそのままの懐かしい光景が広がっていた。






「来るなら来るって言えよ、もう直ぐ出かけるところだったし」



仁はキッチンからホットコーヒーの入ったポットとTカップを持ってテーブルに座った。



ポットを無造作に置きっぱなしな雑誌の上に置いて、俺を見上げてきた。




「座れよ、立ってられると落ち着かない」



俺が無言でテーブルの前に座ると、仁はテーブルの上の携帯を掴み、開いた。





「あ、俺…、わりい、今日行けなくなった…−−−−、
うん、弟来てさ。
−−−−−−−−
本当だって、代わる?−−−−−−−−

−−−うん、
必ず埋め合わせするから、じゃあ…」





簡単な会話で携帯を閉じ、仁は頬づえをつきながらコーヒーをカップに注ぎだした。



「恋人?」



「あ?うん…、少しだけ」



「…………」



「…………」






前に会った時の仁は黒髪だったのに、
今の仁は鮮やかな茶色の髪になっていて、そしてピアスなんかしていなかったのに片耳にピアスが二つ、ついている。




埃っぽいテーブルの上には吸っていなかった筈の、アカマルの煙草。



…惇と同じ銘柄だ。


「本当に…マジでびっくりした、まさかもう此処に来ないと思っていたから」




仁は切れ長の目を細め、そして腕を伸ばし俺の耳に触れてきた。




「拓海、此処に来たって事は…、俺に抱かれに来たんだろ?」




仁は身を乗り出して俺の頬に唇を押し当ててきた。




俺はそのまま仁の首に腕を回し、緩く抱きつく。





そして仁の耳元に唇を寄せ、俺は静かに言葉を吐いた。





「また…刺しちゃった…」




「……え…」

「惇に…会った」

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