《MUMEI》
初めての電車
高山の家は、俺の最寄り駅の隣の駅から徒歩三分の位置にあった。


自転車でも行ける距離だが、一月だから、雪を警戒して電車で行く事にした。


(ええと…まず、切符を買うんだよな)


実は俺は、電車に乗るのは今日が初めてだった。


(車に乗ったのも、旦那様が亡くなった後だしな…)

俺は、そんな事を考えながら、券売機の前にやってきた。


(えっと…)


行き先の値段を何度も確認してから、慎重にボタンを押す。


普通に、切符とお釣りが出てきた。


(次は、自動改札だな)


実は、これは密かに楽しみだった。


(よし、通すぞ)


緊張しながら切符を入れると、切符はすぐに吸い込まれ、開いた改札口の扉の向こうに出た。


(わぁ〜)


結構、感動した。


「あ、祐也だ」

「…へ?」


切符を握りしめながら、辺りを見回すと、改札口付近に


仲村さん一家と、屋代さんがいた。


「どっか行くのか?」


俺を真っ先に見つけた祐が駆け寄ってきた。


「あ、うん。高山のとこに…」

「柊なら今…」


その時、電車が到着したらしく


「あ…」


階段を真っ先に上がってきたのは高山だった。

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