《MUMEI》

「千秋さん、天気良いですよ……そうだ、花壇見に行きませんか?」

千秋さんには気を遣わせてしまった。


「ほら、千秋さん、さつまいもです。これなら収穫するとき好きなだけ掘り起こせますよ!」

この間千秋さんがめちゃめちゃにした花壇にさつまいもの苗を植えた。


「……変なやつだ。」

千秋さんは呆然と口を開けて私を見た。


「違います、千秋さん達が変なんですよ。それに、大学いもは私、得意なんですよ?今度作りますね!」

千秋さんの口に合うかは分からないけれど。


「自分で覚えたのか?」


「一人暮らしが長いですからね。それに……父が唯一作れるものでした。」

母が生前好物だったから父が必死に練習したという。

急に父に売られたことを思い出した。
物悲しい気持ちになる。


「父親のこと、好きか?」

千秋さんの言葉には無駄が無い、常に核心を突く。


「……そうですね。腐っても親子ですから……好きだと思います。」


「俺よりも?」

意外な切り返しだ。


「比べられません、千秋さんとは全く別の域にあるものなんです、父も千秋さんも好きですよ。言葉だと表しにくいですね……」


「千石は?」

不意打ちを喰らう。
臍のピアスが妙に気掛かりになる。


「……分かりません、今の私には…………
千秋さんはどうですか?私のこと好きですか?」

千秋さんは口許を悪戯っぽく吊り上げた。
はぐらかしたのが完全に読まれている。


「曖昧なものは信じたくないな。親子の愛もそうだ、モモはそんな形の無いものを信じて疑わない。」


「父が母を愛していたことは事実ですから。」

私の弱いところを知っている、千石様のようだ。


「……俺の母親の名前を教えようか?“八十”だ。」

…………やそ…………聞き覚えがある名前だ…………


そうだ、千石様が呼んだ名前だ。


「幼い頃から母親は顔を火傷したというから顔を隠し姿を隠していた。俺は一度だけ、母親の顔を見たんだ…………モモ、お前に同じ顔をした人だった。」

私と同じ顔をした人が千秋さんの母親…………?


「私……知りません、分からないです!」

だって、私はずっと一人だった。
母さんも亡くなった。



でも書斎の写真は……
ドレスを着て私と同じ顔をしているけど私じゃ無い。

父さんは“八十”と言っていた……

私ではないもう一人の私…………私は父に愛されていない、八十を愛していたから私は売られたのだ。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫