《MUMEI》
首の輪
私は無我夢中で走り回り、憲子さんが亡くなって立入禁止にされた屋敷に侵入していた。

もう……限界なんだ。

死んでしまいたい。


疲れたのかもしれない、私は何も知らずに医師として平凡に生きていた方が良かったのかもしれない。

氷室家に飲み込まれてしまうのなら、ここから飛び降りるのもいい。
憲子さんと同じ、この建物で……

この間は夜でよく判別出来なかったが、年期の入っている。

私には何も残されてない。

足元がふらついて壁にもたれ掛かった。
…………壁が、沈む。

横に壁がスライドした。

隠し扉だ…………




中は四畳半程度の小さな部屋であった。


「何……?」

窓も無く、シェルターのようだ。

書類が纏まって棚に詰められており大きな机が在るだけの部屋だ。

机の引き出しをおもむろに開けてみた。

写真が入っている。
私と同じ顔をした“八十”に男性が二人……
どちらとも私は知らない。

ただ、私のように一人は首輪を付けていた。




こちらへ向かう足音が聞こえたので咄嗟に写真を持ったまま見付けた螺旋階段を降りた。
下の階の廊下に続く階段であった。

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