《MUMEI》
屋代さんの本音
この後更に、祐はマンションに帰って志穂さん特製のケーキを食べるらしいが、俺は考えただけで胸やけがしたから、屋代さんの車に乗せてもらってアパートに帰る事にした。


希先輩がいるからか、仲村さんは屋代さんの車には乗らなかった。


そして、俺も何となく希先輩がいる前では先程から気になっている質問を


祐が、安藤先輩と別れたのかを訊くことができなかった。


「祐は、女の子と別れたらしいよ」

「え?」


車を走らせると同時に、屋代さんが突然気になっていた質問の答えを言ったから、俺は驚いた。


「今日、その報告に呼び出されたんだ。
まさかあいつが本命を一人にするなんて意外だったな。
てっきり、慎と同じだと思ったからさ」

「屋代さんは、自分だけを見てほしいとか…」

「思うよ、もちろん」


屋代さんは、信号待ちの間もずっと前を見つめていた。


「俺は、慎に惚れてるから、慎が困るから、慎が、普通に妻や子供を選んだら怖いから…決断を迫らないけど」


それから、屋代さんはアパートの駐車場に車を入れると、初めて俺を見て、『今の、秘密な』と言った。


俺が頷くと、屋代さんはホッとしたように笑った。

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