《MUMEI》

「…なんだってこんな事になったんだろう…俺」
自分が苦しい。
いくら、言い伝えでも、たとえ、母さんに守りたくないと言っても、俺は俺次第なんだ。


「…守るべき人は翔。それだけでいいじゃないか」

俺は親のところに電話をする。

「もしもし…」
「あぁ、紀和」
「隆太兄貴!」

まさか兄貴が出ると思わなかったのだ。

「…なんの用だ?」
「言い伝えの事で、ちょっと」
「まさか、お前…取り消したいとか言い出すんじゃないだろうな」

俺は思わずドキッとなる。
「な!」
「ハハハ!お前の思っている事なんてお見通しなんだよ!」

たじろぎ、少し冷静に話す。

「だって…俺、もうこりごりなんだよ」

「ハァ…お前、少し冷静になれよ。もし、仮に言い伝えを守れなかったとしたら家に追い出されるかも」

俺は兄貴に言われてハッとなった。
そして、傍にあるソファーに座る。

「…なんとかなんないかなぁ」
「ならないだろう。俺は21年間、守って来たんだから」
「あんたは彼女が第一いないだろうが!」

兄貴は苦笑いをする。

「ハハハ…まぁ、それはそれで助かっているんだけど」

「で?どうする?」
俺は答える。
「…怒られるのも嫌だし、しばらく頑張るよ」

そして、兄貴は笑って言い放つ。

「そうかい!…でも、無理そうだったら言うんだぞ」
優しい兄貴で俺は良かったと思う。

「うん…ありがとう」


電話を切ると、まだ、胸が熱くなっていた。

「…畜生…! なんでこんな事になるんだよ…」


翌日―

「大悟!」
「紀和?なんだ急に…」

俺は登校していると、大悟を見かけたので、話しかける。

「どうしたんだ」
「いや…少し嫌な事があって」
「嫌な事?」

俺は言うか言いまいか、考えていた。


「うん、実はね」
「また幽霊でも見たんだろ」

慌てて俺は修正する。

「違う違う!そうじゃないんだ!」
「…と、言うと?」

「俺…悩んでいるんだ」

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