《MUMEI》
ケンカ
(ちゃんと別れたんじゃなかったのかよ!)


俺は、教室に来た希先輩の言葉を聞いて、必死で目的地まで走っていた。


「ちょっと通して!」


汗だくの俺が叫ぶと、野次馬が道を空けた。


「もう、やめてあげて、祐!」


安藤先輩が悲鳴を上げていた。


「まだまだ。だよな」

「当たり前…だ」


体育館の裏でケンカなんて、ベタ過ぎる展開だと俺は呆れた。


しかも、これはもうケンカとは言えない。


余裕の祐に対して、相手は

屋上で、安藤先輩に迫っていた、二年生の男子はボロボロだった。


「弱いクセに、沙希に手を出してんじゃねーよ!」

「お、前より、俺の方が安藤さんを幸せにできる!」


(…ん?)


二人の会話の内容と、休み中に屋代さんから聞いていた内容が違う。


「できるって言うなら、俺に一発入れてみろよ!
そしたら、考えてやってもいいぜ!」


祐の必要以上に挑発的な態度


「バ…バカにすんなあ!」

見た目の割にダメージの少ない相手の様子


(そうか)


俺は、祐が何をしたいか気付いた。


「田中君!祐を止めて!」

だから、俺は、『大丈夫だから見てましょう』と安藤先輩に告げた。

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