《MUMEI》 迫真の演技「お前も沙希に気安く近寄ってんじゃね〜よ!」 「…っ、と」 俺は、見た目は派手だが、避けやすい回し蹴りを難なくかわして安藤先輩から離れた。 「今のはひどくない?」 野次馬の中の誰かがポツリと呟いた。 野次馬達の目には祐は嫉妬深く、乱暴な彼氏にうつっていた。 そんな祐に、安藤先輩は戸惑っていた。 やがて、ゆっくりと祐の目の前で倒れた男が立ち上がった。 「頑張れ」 誰かがそう言ったのをきっかけに、野次馬達は男の応援を始めた。 ボロボロでも好きな女の為に、必死で立ち向かうその姿は、ヒーローだった。 そして、ヒーローは悪を倒し、ヒロインと結ばれる。 誰もがそれを期待していた。 安藤先輩も、男が自分を本気で想ってくれている事に気付いた様子だった。 そして、祐も 『こいつならいい』 そう思って 普通の人間にはわからないように 迫真の演技でわざと、男に殴られ、派手に倒れた。 野次馬達からは、拍手と歓声が上がった。 「沙希。あいつが好きなら、とっとと行けよ」 祐の言葉に、安藤先輩は頷いた。 満足げな祐をいつの間にか来ていた葛西先輩が引っ張った 前へ |次へ |
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