《MUMEI》
迫真の演技
「お前も沙希に気安く近寄ってんじゃね〜よ!」

「…っ、と」


俺は、見た目は派手だが、避けやすい回し蹴りを難なくかわして安藤先輩から離れた。


「今のはひどくない?」


野次馬の中の誰かがポツリと呟いた。


野次馬達の目には祐は嫉妬深く、乱暴な彼氏にうつっていた。


そんな祐に、安藤先輩は戸惑っていた。


やがて、ゆっくりと祐の目の前で倒れた男が立ち上がった。


「頑張れ」


誰かがそう言ったのをきっかけに、野次馬達は男の応援を始めた。


ボロボロでも好きな女の為に、必死で立ち向かうその姿は、ヒーローだった。


そして、ヒーローは悪を倒し、ヒロインと結ばれる。

誰もがそれを期待していた。


安藤先輩も、男が自分を本気で想ってくれている事に気付いた様子だった。


そして、祐も


『こいつならいい』


そう思って


普通の人間にはわからないように


迫真の演技でわざと、男に殴られ、派手に倒れた。


野次馬達からは、拍手と歓声が上がった。


「沙希。あいつが好きなら、とっとと行けよ」


祐の言葉に、安藤先輩は頷いた。


満足げな祐をいつの間にか来ていた葛西先輩が引っ張った

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫