《MUMEI》
祐の真意
「あそこまでやる必要があったのか?」


俺は、保健室の椅子に座る祐に質問した。


祐は、殴られた頬を、葛西先輩から受け取った濡れたタオルで冷やしていた。


「祐は意外と人気あるからね」


喋るのが辛そうな祐にかわり、葛西先輩が説明を始めた。


このまま、祐が安藤先輩と別れれば、祐が安藤先輩をフッたという事実が残る。

密かに安藤先輩に嫉妬していた連中は、『やっぱりフラレた』と安藤先輩を中傷する。


「そこは、断定ですか?」

「祐のファンは、結構気が強いからね。それくらいやるよ」


葛西先輩の言葉に、祐は頷いた。


「だから、祐が原因で別れるんだって、はっきり見せる必要があったんだ。

それに、あの男が沙希にふさわしいかどうか見極めたかったし」

「あと、あれだけやれば、俺に言い寄る女はいなくなるし」


そう言って、祐は葛西先輩の腰に抱きついた。


(なるほど)


つまり、あれは安藤先輩の為でもあり、葛西先輩の為でもあったのだ。


「ところで、この事は、安藤先輩には」

「俺から話すよ」


葛西先輩は、祐の頭を撫でながら、答えた。


そして俺は、すぐに保健室を後にした。

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