《MUMEI》
小さな普通
「でさ〜、祐の演技力も忍に負けて無かったぜ」

《そうか》


その日の様子を報告する俺に、忍はいつも通りクールな対応をしていた。


しかし


《祐也》

「…ん?」


忍は珍しくいつもと違う感想を述べた。


《お前、変わったな》

「どこが?」

《口調が。…変わったというより、昔に戻ってきている。

それに》

「それに?」

《固有名詞が増えた》


(そういえば)


冬休みが終わった頃から、『同級生』や『友達』と言っていた部分が、『守』や『祐』といった名前に変わっていた。


「友達は名前で呼ぶのが普通だから」


《それは、お前の普通か?》


「… … うん」


俺は、その日初めて一つ、自分の普通を見つけた。


それは、考えてみれば昔からそうだった。


『親しい人は、名前で呼ぶ』


今は呼べない旦那様の名前はともかく


俺は、近くにいた忍の事はずっと名前で呼んでいた。

(まぁ、付き合いが長いだけだけど)


それと同じように、俺は、今俺の近くにいてくれる友達を名前で呼ぶ。


《これだけ時間を費やして、それだけか》


忍の内容はきつかったが、声は優しかった気がした。

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