《MUMEI》
忍がここを選んだ理由
「それに、ここならお前でも温泉に入れる。

普通の日本人は、温泉に入った事があるから、体験しろ」


(ここなら?)


俺が首を傾げると、忍は俺の背中を指差した。


(あ、そうか)


最近忘れていたが、俺の背中には刺青がある。


「刺青がある者は、普通の大浴場は入れない」

「そっかぁ…」


(じゃあ、修学旅行も無理だな)


俺は何となく、今なら皆と風呂に入ってもいいかなと思っていた。


「それに、お前は毛がない」

「俺は気にしないぞ」


俺は、今は毛が無い事も特に気にはならなかった。


「一生気にしろ」

「何で!?」

「いいから」


忍は俺をずっと睨んでいた。


「なぁー、仲がいい友達とは、普通は裸の付き合いを」

「それ以上言ったら無理矢理ヤルぞ」

「…旦那様が怒るぞ」


俺は間合いをつめてきた忍を見上げた。


昔から忍はこわいと思っていたせいか、自然と涙目になっていた。


「お前が不用意に、周りに裸を見せるよりは、怒らない」


忍の手が俺の顎を掴んだ。

「わ、…わかったから! 離せよ、もう!」

「それならいい」


忍はすぐに俺から離れた。

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