《MUMEI》

千石様とは別の品定めでもするような強い殺意の篭った手つきだ。
千石様の手は刃物を突き付けるような鋭利な温度差が有る。
全てが正確にコントロールされていて、勢い任せに殺意を露にしない。乱雑で粗野な殺しでは無い……

神経まで揺さ振る至高の遊戯……


私の体は私のもの……そう自負していたのに、今、千石様を欲している。

千石様に感情も棄てさせられ絶頂の中で死ぬのだろうと思っていた。




「八十は……萬代様と屋敷で暮らしていたのだ。そこを千石と旧知の仲である男、億永(やすひさ)に見初められた。」

私の釦が一つずつ外される。


「萬代様と八十は心中したように見せ掛けられ殺されたのだ、
最後、億永は拳銃を握りしめ逃げおおせた。氷室の別荘での出来事だ。千石は億永を隠している…………」

刃物が私の喉元に当てられた。一方で衣服が脱がされてゆく。


「俺にとって萬代様は憧れであり全てだった……それを殺してのうのうと生きている億永も匿っている千石も、八十の代わりに成り萬代様の地位を簡単に築いたお前も赦さない……」


そうか、この人は萬代さんが好きなんだ……
皆彼を好きだった。彼を語る表情によく出ている。

会ったことは無いけれど理解できる。


突然の喪失に戸惑い、寂しいのだ……。
だって、誰かの代わりなんて見付からないから。



「泣くな……刔るぞ……!」

刃物を瞼に当てられた。


失明するのかもしれない、仕方ない、抵抗出来ないのだから。

すみません千石様……私の目玉は千石様のものじゃなくなります……。

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