《MUMEI》 個人レッスン翌朝。 露天風呂には俺と忍の姿があった。 俺は岩に両手をつけていた。 俺の後ろには忍が立っていた。 「いいか?」 「…うん」 忍が俺の足を掴んだ。 「そんなに広げるのか?」 「当たり前だ」 「そっかぁ…奥が深いんだな 平泳ぎは」 忍は無言で俺の足を掴み、平泳ぎの動きを繰り返した。 (しっかし、全裸で水泳指導って…) 有難いけどタオル位は巻かせて欲しかった。 しかし、温泉でそれは邪道だと忍が力説したからそれはできなかった。 そして、俺は忍の猛特訓の末に平泳ぎが少しはできるようになった。 「あ〜、腰痛い…。足も何か変だし」 二月十一日。 二泊三日の合宿のような旅行を終えて帰ってきた俺は、しばらくそんな事を無意識に言っていた。 原因を訊かれて、忍と温泉に行ったからと答えると 志貴と柊は赤くなり (忍を女だと誤解した)サッカー部の三人には感心され 祐には笑われた。 (何なんだ、一体) 俺は、痛む腰をさすりながら首を傾げた。 ただ一つはっきりわかったのは、温泉で筋肉痛は普通じゃないという事実だけだった。 前へ |次へ |
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