《MUMEI》

一人立つ女性が、落着き無く飛び回る蝶達へ穏やかな声を向けていた
その中の一匹が群れを外れ、何故か深沢の元へと飛んで近づいて来る
手を差し伸べてやれば指先へと停まり、そして女性と眼があった
「……奪われて、しまったようね。どうりで、蝶達がひどく騒ぐ」
深沢の姿に、蝶達は益々散り散りに騒ぎ
女性は小さく溜息をつくと、深沢を家の中へと招いて入れた
座敷へと通されると、奥から茶を持った青年が姿をを見せ、円卓に茶と菓子を置く
深沢は取り敢えず礼を言うと、自身を落ち着かせるため一口茶を啜った
「……テメェは、あのガキのガキの知り合いか?」
音を立て湯呑を置い手からの深沢の問い掛け
深沢の向かいで同様に茶を啜る女性が、返答する事はせず淡々と話し始めた
「あれは多分、蝶の始祖。蝶の原型よ」
「は?」
彼女の言の葉が理解出来ず聞いて返す深沢
訝し気な表情の深沢に、だが女性は構う事もせず話を続ける
「蝶は孤独を憂えていた。一人生き続ける中で生きる意味を失い掛けていた。そんなとき現れたのが、アンタ達が陽炎と呼んでいる蝶だったのよ」
陽炎を傍らに、共に在ってほしい、と
蝶に惑わされているからその様な下らない欲を抱くのだとの女性の言葉に、深沢は何となくだが納得がいった
あの少年はおそらく、蝶に惑わされているだけでなく憑かれているのだ
その結論に、深沢は再度溜息をつくと立ち上がる
帰るのか、との相手からの声に
深沢は僅か首だけを振り向かせ
「テメェ何で、そんなこと知ってる?」
気に掛ったことを問うて
相手は瞬間驚いた様な表情をし、だがすぐに笑みを浮かべ話事を始める
「私は、ヒトの(欲)を守る者だもの」
と解らない返答が返り
当然理解など出来ない深沢、だが相手はそれ以上語ろうとはせず
深沢は溜息を三度つくと相手へと一瞥を取り敢えずくれてやり、その場を後にしたのだった……

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