《MUMEI》

「ヤスちゃんが慰めで言ってくれてること、分かってるつもりだったのに・・・。私の中でどうしても、存在が大きくなって。」

成原さんは大きな瞳から、ポロポロと涙を落とした。

杉田くんが突き放せなかったのは、幼なじみの成原さんの辛さをわかっていたからだろう。安易にそばにいると言ってしまった、責任も感じて・・・
私は彼女の頭を優しく撫でた。

「投げやりになったら駄目だよ。お姉ちゃんの分まで、成原さんが頑張って生きなきゃ。」

その時、お店のガラス扉がガラガラと開く音がした。私は扉の方へ顔を向ける。
一瞬にして、お互いの目が合った・・・

「名波せんせい・・・」

聞こえない程小さい声で呟いた。成原さんは声を殺して、しゃくりあげている。

「成原・・・。」

私よりも先に声をかけた。確かに問題行動を起こしたのは彼女なので、当たり前だ。破れた制服をじっと見ている。

「せ、せんせい私・・・」
先生はゆっくり頭を撫でた。きっと成原さんの心は少しずつ晴れてきているのだろう。

「もう、こんなことするなよ。今日のことは俺と広崎の胸にしまっておくから・・・。」

先生は成原さんの担任に、報告しなかったんだ・・・確かに、バレたらオオゴトだ。義務教育なので辞めさせられることはないが、きっと本人が学校にいられないだろう。

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