《MUMEI》

「……お久しぶりです、皆様。」

千秋さんは不敵に笑う。


「一つ言いたい事は億永の死後、見付かった彼の遺書は偽物ということです。」

千石様も千秋さんのように笑う。

「此処に居る理由を考えたことがありますか?
貴方達は根本的なミスをした。
八十を億永のスパイに選んだということだ!」

千石様は私のストールを剥ぎ取り、手摺りぎりぎりまで車椅子を寄せた。
悲鳴のようなざわめきがする。
私のストールで隠された顔の一部は火傷のように特殊な技法で化粧されてある。


「億永は元々長くは無かった、あらかじめに遺書は私が保管していた。
八十はそれを知りながらお前達に何も告げなかったのだ。そして、燃やした屋敷から二人で逃げ出し私の用意した場所で療養する手筈だったのだ。
……しかし、病魔の進行を知っているのは億永本人だけだった。
彼は自殺したのだ、拳銃でな、この先のことは全て私と八十に託した、火傷は八十が億永を捨てきれずにいたせいで受けたものだ。
さあ、八十よ、その顔をよぉく見せ付けてやれ。爛れた傷がお前達賎民の齎した罪の色だ!」

私を持ち上げ、落とすくらいに手摺りに上半身を乗せられた。

下の人々は蒼白になり、腰を抜かす人も見えた。






  「本物なのか?」

一人の者が呟いた。


「そうだ、偽物じゃないのか?」

他の誰かが言う。


「女の死体が見つかったんだろう?」

それに続いて口々に喚き立てた。

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