《MUMEI》

千石様は私をひっくり返し、腿まで落とす。
車椅子を押していた人は急いで私の足を掴む。

逆さ吊りに私は手摺りにぶら下がる。



「証拠ならある!」

腹部の衣をカッターで切り裂かれ臍のピアスが露になった。

客人達は哄めいた。


「億永が八十の為に誂えた特別製の品だ……知っているだろう?」

脇腹から臍にかけて指を滑らせる。


「じゃあ、あの死体は誰のものなんだ……」

疑惑は晴れない。

“八十”は実際に死んでいるが、千石様は私を“八十”にしたいらしい。


「行方不明のが一人居ただろう?
あれは牝だ。八十の姉だ……、あれの母親が囲われていた頃の不義の子供が萬代だ。八十とは腹違いの姉妹だったのを隠しながら生きていた……。
億永は自殺だ、誰ひとりとして謀れなかったということだ。さあ、恐れるならば跪づけ、大人しく全て億永から奪ったものを返せ。」

逆さになっていても混乱状態が見てとれる。
今、下には恐怖しかない。

その様を千石様も千秋さんも含み笑いをしながら満足気に眺めていた。

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