《MUMEI》
失踪
晩餐会以来、千石様に会わなくなった。
療養として屋敷を一つ頂き、そこで支えを使って歩くまで回復をしている。




「……弱い奴。あんたみたいなの大嫌い。」

少女が私の枕元に立っていた。
目力がある少女だ。


「……あなたは?」


「千花様ー!何処にいらっしゃいますか!」

使用人さんが読んでいる。
千秋さんが以前おっしゃっていた“千花”さん……?


「八十はもっと気高い人だった。あんたなんか同じ顔の見目の良い玩具だ。」

そう言い残し、少女は消えた。


「千花、来ていたな。」

千秋さんが桃を持ってきてくれた。
千石様と千秋さんはよく、仕草や話し方が似ていらっしゃる。


「私……億永さんの財産を守るための手駒の一つだったのですね。いつ、私は帰れるのでしょう。」

千秋さんは私を見て笑う。

「ふ……何処に帰るつもりなんだ?モモは家のものだ、俺の……」

千秋さんは器用に刃物で桃を剥く。滑るように皿から水気の多い桃が落ちる。


「……千秋さんのお友達です。」


「……嫌いだ。」

千秋さんは桃を踏む。
果汁が床に染み込んだ。

「 二日前から千石が居なくなった。……財産は俺に譲るらしい。


                   どうする?」

潰れた桃の足跡が去った印になっていた。

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