《MUMEI》

……あの、隠し部屋だ。






無我夢中で走る。

一縷の願いを込めて扉をスライドさせた。






「……お前は千秋に渡したはずだが。」

黒い着物を着て、隅に座り込んでいた。





「………………萬代さんですよね。」

手術したとき、銃痕を見た。

千秋さんと千石様はよく似ているが、違和感があったのだ。
千石様が千秋さんに似ているのではないかと。


「だったらどうなんだ。」

千石様は私から目を逸らさない。


「その、刃を下さい。」

手には刃を握り締めている千石様の向かいに座る。


「命令するな。」

妙に千石様は冷静でいつでも腹を掻き切る構えだ。


「命令じゃありません。
“お願い”です。憲子さんは貴方に生きていて欲しかったんですよ。」

憲子さんは息子の仇と思い刺した相手が息子本人と気がついてしまったのだ。


「……五月蝿い鳥だ。」


「私は五月蝿くて弱い、愚かな人形です……貴方の人形です。私は貴方のものなのでしょう?
もう一度言います。その刃を私に下さい。」

臍のピアスを見せる。
黒い十字架が揺れた。

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