《MUMEI》 「……億永さんの父親?」 愛人だったのか。 「私は十歳の頃に億永に拾われ以後、彼の影として、奴隷として育てられた。」 「八十とはその時に会っていたのですか?」 写真に三人で写っていることを思い出す。 「飼われていたことならある。 億永が私を贈った…………二人の逢い引きを手伝う為、時には八十を、時には億永を演じた。 八十は億永の父のものだったからな、父が死ぬまで他の女と結婚していた。」 「何故、二人は死ぬ必要があったのですか。病気でですか?」 億永さんが病魔に侵されていたから……? 「氷室千石だから……億永は氷室千石だったからだ。そこで別の女から息子を一人、産ませている。 億永を殺そうと恨みを持つ輩、財産を狙う愚者が唆した。ミスをしたのはその中に私がいたことだろう……二人に外国に逃げるように手配した。」 千石様が冷笑する。 「二人を恨んでいた?」 「私は二人の仲に嫉妬していた。……モモ、お前にもだ。」 私の真横の刃に彼の顔が映し出されている。 「……私を?」 何故、私を知っているのだろうか。 「産まれた時から知っている ……億永も私も八十も父親は同じだ。」 つまり、億永さんも八十も私もこの人と血の繋がっているということだ。 「腹違いの兄弟と……」 「溺愛された女から男児が産まれれば億永の地位が揺らぐ。 モモ、お前が今まで生きていられたのは男だからだ。 億永の父はお前の母を追うように病死する。その間八十を片時も離そうとしなかった。 同じくらい、億永は八十に執着し、八十はその倍にモモに執着した……」 「二人は愛し合っていたのでしょう……」 何故私が間に入るのか。 前へ |次へ |
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