《MUMEI》 17#叫び声を上げながら草馬は甲条院に斬りかかる。 突然の大声に、眉をしかめ、草馬を一瞥すると 手にした扇子で素早く少年の額をコツンッと一打ちする。 「小僧、五月蝿いでおじゃる」 一瞬にして間合いに入られ、殺傷能力などほとんど無い扇子で急所を打たれた事に 草馬は愕然とした。 ――――相手にもされていない・・・。 殺す価値さえ無いと判断されたのだ。 それは、剣に携わる者への最大の侮辱である。 自分の怖れが見透かされた結果であった。 一気に勢いを喪失し、草馬はその場にへたり込んだ。 その時、 草馬と交代するかのように、甲条院の元に黒尽くめの男が走りよって来た。 男は甲条院の部下の様で、自らの主に耳打ちすると、傍らでへたり込む草馬には目もくれず走り去った。 「ホッホッホッ!見つけたでおじゃる。」 誰に言うでもなく呟くと、グニャリと顔を歪め、屋敷の前に待たせていた悪趣味な金色のカゴへと歩き出す。 「よかったでおじゃるなぁ〜麿はベッコウの居場所が分かればそれで良い。 命拾いしたのぅ、麿は無用な殺生は嫌いでおじゃる。ホッホッ」 パタパタと扇を揺らしながら、甲条院はカゴに乗り込むと闇へと消えて行った。 前へ |
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