《MUMEI》
「こんな事でよかったの?」
「こんな事がいいの」
付き合う前に連れ込まれたっきりの貢のマンション。たまに貢が荷物を取りに来る位だから入った瞬間、ちょっと埃臭かった。
それでも綺麗に片付いていて、窓を開ければ普通に爽快で。
「俺あんまり料理出来ない…出来るかな」
「だからい〜の、一生懸命頑張って」
来る途中少しばかり買った食材。
貢はキッチンに立ち、真剣な表情でジャガ芋の皮を剥き出す。
ちょっとくすぐったい気分で俺はそこから目線をそらし、テレビに集中した。
・
「凄い!見た目ちゃんと肉じゃが!」
「味はわかんないよ〜?…」
貢のマンションで貢が作ったものを食べたい、貢のマンションに泊まりたいってお願いした。
学校から離れてるからつい、全然来てなかったから。
野菜の切り方は不格好だけどでも見た目肉じゃがと解る煮物に箸をつける。
「どう?」
「うん……、」
……なんだろう?
なんか違う……
貢は不安げに自分の分に箸をつけ…
「うん、俺はこんなもんが好きなんだけど…、聖ちゃんには味薄かった?」
「あ、うん…、ちょっとね…、ごめんね?醤油ちょっとだけいい?」
器に盛られた肉じゃが。ちょっと量が多いから味かえないと食べ切る自信がなくて、正直に申しでると
「醤油?…うちソース党だからないんだ、ソースでいいかな」
………
貢はにっこり笑うとキッチンからソースを持ってきた。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとう…」
なんか違う味だと思ったら…
ソース肉じゃが…。
−−恐るべし関西人。
いや、貢だけだと信じたい。
俺は有り難さを噛み締めながら、生まれて初めての味の肉じゃがを頑張って仕上げた。
貢はそんな俺を本当に嬉しそうに見つめながら、また作ってあげるね…などと言っていた…。
正直…
遠慮します。
END
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