《MUMEI》

「割り勘じゃなくていいから、本当ごめん」
「そうはいくかよ、だって佐伯に割り勘にしたっつたんだろ?」
日高はケツポケットから財布を出して、俺に千円突き付けてきた。
「ほら…」
「うん、悪いな」
「いーよもう、じゃあな、またな」

日高相当機嫌悪い。最近聖の家に行きづらいらしくて今日はなにげに楽しみにしてたんだ。
何日も前から俺に何度もメールよこしてたし、いや…
本当にコイツは楽しみにしていた。

日高は踵を返し玄関のドアに手をかけた。
「な、飯食いいかね?」
「は?俺とまこちゃん二人で?」
「うん、そう、二人で」
「………」
「せっかく聖通じて知り合ったのに、なんか俺達メル友っぽい関係じゃん?
ちょっと交流しない?お詫びかねて奢るし」
「お!奢りぃ?
奢りなら行く行く!ち、ちょっと待ってて!」
日高は一瞬で笑顔になり慌てて家の中に消えていった。
「本当に奢りに弱いんだ…、聖の言うとおり?」

俺はちょっと笑いながらホッとして…
バックから覚えたての煙草を出して火をつけた。



「あ、煙草マルボロ、俺と一緒だ」
日高はしゃがんで煙草を吸う俺に目線を合わせて言った。
「一本やろうか?」
「いや、自宅前はさすがにやべーし…、あ、でも一口」

無言で差し出すと日高はうまそうに深く吸い込んだ。相当前から吸っているらしい、慣れた様子で煙を吐き出した。
「なんで家入ったんだ?何処も変わった様子ねーんだけど」
バックでも取ってくるのかと思ったら何も手に持っていない。
汚いシューズも変わらない。髪型だって寝癖が酷いまま…
夜なのに寝癖が酷い日高って一体…。

「あ?ああ、おかんにご飯いらないって言ってきたんだ、
じゃあ行っちゃう?」
「あ?うん…」

−−いい子ってやつか?

さすがは付属の優等生?
お坊ちゃま?

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