《MUMEI》

「八十は億永に内密にモモの写真が送られると裏に恋文を記していた……。
億永は八十の心を奪ったモモに復讐した、あの家庭教師でな。」

私の女性恐怖症は億永さんのせい……?

「八十は……自ら写真を燃やし億永モモの顔に似せて整形した。」


「八十は私を愛してくれていたのですね。」


「さあな?億永への怒りの表現だったのかもしれない……億永から守る為、財産を狙う輩から守る為、八十はお前を守りたい一心だった。
そんな八十に億永は心を奪われ惹かれ合い、千秋が産まれた……」


「ずっと、見ていたのですね。」


「私だったのだ……もう一人の八十(私)は死んだがな。」

どうしようもなく、苦しい。私には侵せない範囲がある。


「貴方は千石様として生きるのを拒まなかった……二人の忘れ形見である千秋さんの為?」

千秋さんの外に子供がいれば面倒になる。
氷室家に引き取られればそういう心配も無い。



「元々、千石であることに抵抗はなかった。
億永が殺されたと思われることも八十が口車に乗せられて殺人を犯す軽い女に見られるのも気に入らなかった。

…………何より私は二人に置いていかれたことが悔しかった。
私は億永に病のことを一言も知らされてなかった……もはや、うやむやになっているが死期を悟った二人の心中だったのだろう。

だから、八十が愛したモモを億永のように蹂躙してやった。それが、“氷室千石”だからだ。」

私の喉元を千石様は押さえ付けた。


「 ……ッ 」

抵抗はしない。
彼には私を殺すほどの力が残されていなかったからだ。


「モモ……ずっと欲しかった。母譲りの貌に億永に恨まれる程八十に愛されていたお前を。
写真の中に美しく居たお前を私が手に入れれば勝てる気がしたんだ。
…………私だけのモモ。」

この人は私に何を見ていたのか。
彼の唇は冷たくて、
額に当たると今まで知らなかった沢山の葛藤まで伝わりそうだった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫