《MUMEI》

……何と無く、今、キスされると予測出来た。

首に掛かる甘い圧力も、肌の温度差も心地良い。


「……貴方は、私だけの千石様になれないのでしょうか……」

私が貴方のものなら、貴方は誰のものなのだろう。


「私は影だ。氷室千石以上で以下でも無い。」

楔でも打ち込まれたような従順な複写……それがこの人なのか。


「私は貴方である“千石様”のものです。痛みも傷も貴方に教わった。
手放さないで……責任取って下さい。」

一方的に終わらせないで欲しい。
死なないで欲しい。

このまま残されることは
今まで受けたどの傷より、苦しい。

この人は私を所有したのだから。


「写真を見る度に、目を奪われた。
日毎にお前を支配したいと、私の中の“千石”が喚き散らした……」



「……私も、貴方をずっと待っていました。全てを委ねられる支配者を……」

渇いた単調な世界を刔り出して痛みでもって潤した。





「この“氷室千石”をこの世に引き留めるとはいい度胸だな?」

声だけで鳥肌が立つ。
肌に食い込む爪に狂喜される。
伸びきった髪を鷲掴み、首を限界まで反らされる。
犬歯で舌を貪り喰われ疼きを覚え、高ぶる。


体中の血が湧く。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫