《MUMEI》
お目覚めには紅茶を
「おばあちゃーん、いないの〜?旅人様が起きたよ〜」
年相応の可愛らしい声で叫ぶ。ということはこの家はダナエのおばあちゃんの家なのだろう。
「おばあちゃ〜ん?」
「聞こえとるよ」
もう一度ダナエが叫ぼうとしたとき、奥の扉から浅黒い老婆がでてきた。
老婆は軽く一礼すると、ゆっくりと僕の方に向かってきた。
「ようやく起きたか、旅人さま」
すこしかすれ声ながらもはっきりと聞こえる、不思議な雰囲気の声だった。
「ダナエや」
「はい?」
「ちょっとお茶をだしてきてくれんか。今から彼と話をしなくてはならん」
「アイアイサー!」
ビシッと敬礼をして奥の方へ小走りで去っていくダナエ。彼女にはどこか人をなごませるところがある。
「さて」
老婆は僕の方を向き、無言で雑誌のある椅子の隣の椅子を指差した。どうやら座れというわけらしい。別に断る理由もないのでさし示された椅子に座ると、老婆はその向かいの椅子に腰をかけた。
「さてさて。私の方は昨日みてはいるのだけれども、はじめまして。私の名はメイエ。ダナエの母方の祖母にあたります」
「あ、はい、はじめまして。僕はロスト。ありがとうございます、助けていただいて」
深々と礼をすると、メイエはにっこりと笑い、しわだらけの手で僕を制した。
「いえ、神に祈ることと旅人さまたちの手助けをすることだけが、私達にできる神への恩返しですから」
この発言からどうやらそうとうに信心深い人のようだということが推察できた。それにしても、旅人というのはどういうことなのか。
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