《MUMEI》
帰り道
行きは祐がいたから、徒歩で登校した俺は、帰りは貴子さんの車でアパートに戻った。


荷物が多いからと、志貴が頼んだらしい。


「で、写真の件だけど」

「嫌だから」

「いいじゃない、別に」

「嫌だ」


俺と志貴は、車の中でずっとこんなやりとりを繰り返した。


「女の子ばっかりなんだから、夜のおかずになんかしないし〜」

「あ、当たり前だろ!」


されたら困る。


「振袖は、されてるかもね〜」

「母さん!」

「やめて下さいよ!」


真っ赤になって抗議する俺達を鏡越しに見ながら、貴子さんは『冗談よ』と言って笑った。


そして、車はアパートの駐車場に入った。


(あ…)


貴子さんの車と入れ違いに、屋代さんの車が入ってきた。


「こんばんは」

「こんばんは。…いくつもらったの?」


屋代さんは、俺の持っている紙袋を指差した。


「わかりません。屋代さんこそ、すごいですね」

「あぁ、義理だよ、義理」

屋代さんは苦笑したが、職場からだというチョコレートの中には、本命と思われる物もあった。


そして、毎年もらっていた希先輩からのチョコレートが無い事が、屋代さんは少し寂しい様子だった。

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