《MUMEI》
お目覚めには紅茶を
「でも、僕は別に旅をしてここに来たわけではないんです。目覚めたらここにいただけで…」
素直な疑問を口にだすと、メイエは一度深くうなずき、わかってます、と小さく呟いた。
「きっとあなたは今の御自身の状況をわかってらっしゃらないでしょう。だから、ダナエは私の所へあなたを連れて来たのです」
ちょうどそのとき、ダナエが紅茶をもってはいってきた。
「おばあちゃん、もってきたよ」
ダナエがそういって紅茶をカップに入れ始める。芳潤な香りがただよい、それだけでいいものだと分かるような品だった。
メイエはそれを一口すすり、幸せそうな表情を浮かべた。なんだかひからびた肌に潤いがもどってきたような錯覚が浮かびさえする表情だった。
「これはグノーブからわざわざ取り寄せた高級品でね」
グノーブ、というのはどこのことかはわからなかったが、そんな高いものをだしてもらったのだから飲まないわけにはいかない。
僕はカップを手にもち、一口だけ口をつけた。遠くからでもわかったあの薫りが口の中で広がっていくのがわかる。おいしい。感動的な味だ。
メイエも僕の顔をみてそう読み取ったのだろう、しわだらけの顔をさらにしわくちゃにして微笑んでいた。「さて、旅人さん、少々退屈な話でしょうが聞いてください」
そういうと、彼女はつぶやくように語りはじめた。
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