《MUMEI》

自宅へと着くなり、深沢はベッドへと横たわり
白のシーツが段々と朱に染まっていく様に、滝川は取り敢えず手当をと、深沢のシャツに手をかけた
晒された肌は血に塗れていて
見るに痛々しい
「……俺の為にこんなボロボロになってさ。本っ当お前って馬鹿。大馬鹿だ……」
傷の手当をしてやりながら
その深々しい傷が自分の為に出来たそれなのだという事に滝川は胸苦しさを覚える
熱を帯びるそこへ濡れたタオルを押しつければ
痛むのか深沢の表情が歪んでいった
「痛い、よな。本当ごめんな」
何の役にも立たず、ただ脚を引っ張るばかりの存在
そんな自分が腹立たしくて
歯痒さに、涙が頬を伝う
「俺、やっぱりお前の傍に居ない方がいいのかもな」
震える声で呟きながら
だがそうしたくないという葛藤が、滝川を更に苦しめていった
段々と落ちていく涙が、深沢の頬を濡らしていく
暫くそのまま、何も出来ずにいると
目の前に、突然幻影と陽炎の姿
二匹寄り添い飛ぶ様は、傷ついた陽炎をまるで労わる様で
見ていて、微笑ましかった
「……俺の事、抱いてくれよ。お前から離れられなくなる位」
自分も、自分を受け止めてくれる腕が欲しい、と
欲しているのは深沢の腕なのだと滝川は眠る深沢の上へ、腹を跨ぐ様に乗り上げその事を一方的に告げる
ゆっくりとキス一つを交わしながら
直に深沢の呼吸を感じ、取り敢えずは安堵した
「大丈夫、ちゃんと生きてる。明日になったら、きっと起きてくれる……」
だからもう少し眠らせてやろう、と
滝川は深沢の傍らで腕を枕に顔を伏せる
相当に疲れていたのか
すぐ様睡魔に襲われ滝川も眠りへと誘われ穏やかな寝息を立て始めていた
微かに呻く様な声を上げ、深沢が目を覚ましたのがその直後
横にもならず座ったまま眠る滝川を見
深沢は肩を揺らす
「前と、逆だな」
以前の騒動の時は眠るばかりの滝川に散々心配をさせられた
だが、今は
「……相当に、ベソかいたみてぇだな」
逆に心配をかけ、泣かせてしまったらしく
赤く腫れてしまっている滝川の目元を見、深沢は溜息と共に苦笑ばかりを浮かべる
街の雑踏を室内で聞きながら
改めて一人は心細いものだと、柄にもなく思ってしまっていた
「……もう、迷子になんか、なってくれるなよ」
耳元で呟いてやりながら滝川を布団の中へ
引きずり込み抱きしめてやれば、深沢はまた寝る体勢へ
大切な温もりを傍らに感じながら
引き離される事が二度とない様にと
深沢は切に願いながら眠りへと落ちていった……  

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