《MUMEI》

「そこ、空けろ。」


俺は階段を下りて一番野球グランドから近い場所に来ていた。


しかし、さすがに人が多すぎてとても席に座れる余裕がない。


そこで、その場にいた女子高生、いわば蓮翔ちゃんのファン達に声を掛けたのだった。


「はあい??
誰がアンタのために……」


予想どうりの反応……


やはり蓮翔ちゃんを見るためにある様な、絶妙な位置にあるこの席はさすがにそう簡単には席を譲らないだろうな。


ましてや相手は蓮翔ちゃんのファンであり、女子高生だ。


俺に席を譲る可能性は限り無くゼロに近い。


俺は潔く引き下がろうと、来た道を戻ろうとした。


するとーー………


「あのっ、こちらどうぞ!!!」


予想外の言葉に驚いて振り返ると、
いまさっきまで険悪な雰囲気を漂わせていた女子高生は、妙におとなしくなっていた。


俺が少々当惑していると、再び声がかかった。


「ここ……っ!!」


視線を落とすと、さっきまで女子高生で埋もれていた席が、やけに大きく空けらていた。

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