《MUMEI》
感涙
「…おい」

「…」

「おい」

「……」


(あ〜もう、)


「いい加減、泣き止めよ」
「う、うん…」


頷きながら、何度も鼻をすするので、ティッシュを手渡した。


(…まったく)


まさか泣かれるとは思わなかった。


『手作りクッキー焼いたんだけど、いるか?』


そう、メールした時、何となく早朝に来そうな予感はした。


(毎回、そうだし)


だから、今日。


三月十四日。


ホワイトデーに、玄関のチャイムが鳴って、柊が立っていても、俺は慌てなかった。


あらかじめラッピングしておいたクッキーを渡して、それで終わり…


(…の、はずだったのに)


柊が突然『嬉しい』と言いながら泣き出すから、俺は慌てて柊を部屋に入れた。


…『その優しさに感動した』と、余計に泣かれた。


「ほら」

「ありがとう」


腫れあがった瞼が痛々しいから、タオルを渡すと泣きながら拭いていた。


(意味無いなぁー)


結局柊はひどい顔のまま、部屋を出た。


(キングを泣かせた男とか、言われたらやだな)


柊の背中を見ながら、ため息をついた。


(ん…? あれは)


廊下で柊とすれ違う祐が見えた。

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