《MUMEI》
アメで太陽な人
(よし! さっさと渡してさっさと帰るぞ)


俺は気持ちを切り替え、玄関の前で深呼吸をしていた。


ガラッ!


「うわ!」

「あぁ、ごめんね。驚かせて」

「い、いえ…」


驚いたのは事実だが、玄関を開けた大志さんの穏やかな笑顔につられて俺も笑っていた。


(よし、このまま大志さんに渡して帰ろう)


「さ、上がって」

「え?」

「果穂が待ってるから」


大志さんは俺に微笑んだ。

(こ、この人…意外と侮れない)


他の連中のような強引さは無いが、穏やかではあるが隙のない様子と、自然に流されそうな笑顔は、やはりタダ者では無かった。


(よく考えたら、この人、あの果穂さんの夫だしなあ)


大人しく大志さんに従いながら、俺は小さくため息をついた。


(強引なのは免疫できたけど、こう優しいのはまだなあ…)


「皆さ、俺と果穂をアメとムチとか、北風と太陽って言うよ」

「何ですか? それ」

「知らない?」


俺が頷くと、大志さんは足を止めて、丁寧に説明をしてくれた。


(あぁ、なるほど)


優しい大志さんがアメと太陽で、強引な果穂さんがムチと北風だと、俺は深く納得した。

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